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うそは、あたたかい
 

 傷付ける言葉を浴びて、傷付く。そこに明確な意思が見え隠れしたら、俺の勝ち。しかし大抵は、存在しない。本当のことを云っているときも、愛情の表裏のときも、多くのバリエーションに富んでるくせに、いつも一途だ。相手しか見えていないという点において、あまりに純然だった。だから裏切られるんだよ、と囁いてやりたいときは幾多もったが、特にしない。そんなのは、安っぽい。俺はしない。

 いつも隣に居てくれる人が、いつも見放していたら辛いだろう。「どうして、フランスさんは、イギリスさんに言って差し上げないのですか。」そんなのは、決まりきっている。しかしそれもまた、言えば安っぽい。そんなんでないのだ。あの眉毛野朗へのこの憎愛は、そんなものでは、ないのだ。

 

「言葉にできないって本当にあるんだよね。」

「それには肯首けまずが、しかし、救われるものがある場合においては、あまり感心のし難いことかと思われます。」

「日本は手厳しいなあ。でもさ、救われるものなんて、ないんだよ。」

 

 日本は、そうでしょうか、と小首を傾げた。そして困ったように笑った。笑ったふりだと俺は知っていた。日本は俺を責めているのだ。やんわりと、毒するように、制するように。

 俺は傾けていたティーカップを置いた。陶器の無機な音がした。耳には心地よくなかった。

 

「例えば、俺があいつに愛を囁いたところで、何が救われるの?」

「具体的な結論に言及は致しかねます。」

「だろうね。でも、そしたらイギリスは傷つくし、俺は嘘吐きになるし、いいこと一つもないんだよ、日本。」

「私は、」

 

 フランスさんが嘘を吐いているようには思えません。日本は、罰の悪そうな声音で言った。俺はそれをとても好ましく思った。日本は、責めるべきことと、介入とを判別している。それがよかった。無作法に踏み入る手前で留まる。あの眉毛には出来ないことだ。そして、俺が得意すぎて、本当を見失ってしまったものだ。

 日本は、わずかに目尻を下げて、申し訳なさそうに続けた。「フランスさんは、どうして嘘をつく前に、嘘をつくのですか。」

 

「臆病だからだよ。」これは本当。

 

 日本はいよいよもって困った風になった。ティーカップに添えられた指が、きゅっと縮まった。そして伸ばされて、強くカップを握った。

 

「私は、友として、個人として、イギリスさんの笑顔が好きです。フランスさんもそうなのでしょう?」

「うーん、どうだろう。」

 

 悲しい顔をされてしまった。これではまるで、俺が日本を追い詰めているみたいだ。日本はそれきりイギリスと俺とについて言い募ることをやめた。俺は少し残念だった。責められたいわけではないけれど(マゾでもあるまいし)、友に想われるイギリスについて聞くのは、とても耳に心地よかったのだ。愛されてるねえ、坊ちゃん。と、居もしない隣人へ話しかけて談笑している気分になるから。

 壊す本当などいらないというのが、恐らく俺たちの、俺の答えだ。日本のように、愛することはできる。笑顔が好きだと言えたら、もしかしたら友人になれるかもしれない。

 

「しかし、それこそが嘘だ。」

 

 友人になどなれるものか。今更、あの憎しみを、薬指に染められた互いの血の色を、なかったことにして、愛してるだのなんだの、そんなのは、まやかしだ。本当ではない。安っぽい。そんなのでは、ないのだ。

 お前など嫌悪できたら、拒否できたら、拒絶できたら、断絶できたら。

 言葉になどできたら、一番易しいし、優しいのにな


#フラアサ#掌編

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