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,エヴァ

星の礫


 今日星屑を食べに行きます、どこへとと言われてもいつか君がいたあの空へとしか言いようがない。そこに僕はいないよ、僕は今君の眼の前にいるよ、君の真っ赤な星を爛々と眺めているよ、君の瞳の中にこそ本当の星礫が潜んで煌めいているのだ。シンジ君はときどきロマンチストだね、そしていつか虚無的でもある。僕の瞳の中になんて世界は広がらないよ、さあその手を伸ばして、その手すらどこにも触れられないから。カヲルが手を握り締めればシンジの頬は林檎の美しさのように光り輝く。艶めいて、愛らしく潤う。一緒に星屑を食べに行こうよ、銀河の果ては膨張して今も広がっているんだ。二人でならどこまでも行けるよ、本当に?そうかな?繋いだ手に鼓動が伝わりそうで儚くて微動だにしない。手のひらが冷たい。カヲルの手のひらは死体のように冷えている。生きてるって確かめたいのに、君の手はこんなに冷えている。シンジはすこし悲しくなった。星屑を探しに行こうという君の手がまるで星のような冷たさだ。指先から爪の先まで凍えているのは宇宙の寒さなんじゃないだろうか、君はすでに宇宙のどこかで僕の知るあの赤い星の星の礫になっているんじゃないのか。シンジは笑えずにカヲルの手を握りしめる。弱く、やわく、優しく。強くなんてできない、そんな風に手を繋いだこと、一度だってない。人と手をつなぐことは、星を掴むよりもきっと難しい。シンジにとってはだ。カヲルくん、どうか星になんてならないで。帰らないで、ここに居て。カヲルが笑う。嘘みたいに笑う。頬は紅潮しないし手のひらは心のようにあたたかくならない。ああこういうとき、この人は自分とは違う生き物だったのだと思い知る。空を見上げた。星は燦々と照り輝く。こんなに美しいのに、こんなに寂しい。月が見えない。美しいなんて言えない。カヲルくん、君の言葉は僕の鼓膜を震わせるけれど、けれどその手が冷たい。不安だ。どこにも行かないで、ここで一緒に、どうか星の礫で窒息死して。

#カヲシン #掌編

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